桐(きり)は、ゴマノハグサ科の落葉高木で、原産地は中国と言われています。
野生のものはほとんどなく、大部 分が栽培されているそうです。
中国の伝説に、優れた帝王が現れるときに姿を見せるという鳳凰の棲むの木が、桐(きり)の木であるといわれています。
この瑞祥思想(ずいしょうしそう)から意匠化されたのが、天皇の袍(ほう)の文様の「桐竹鳳凰文(きりたけほうおうもん)」です。
桐文様は高貴なものとされ、天皇の黄櫨染(こうろぜん)に用いられています。鎌倉時代に後鳥羽上皇により皇室の紋章とされたといわれているようです。
花の数によって「五七の桐」「五三の桐」と呼ばれます。
桐文(きりもん)は臣下に下賜されたのがきっかけで、多くの人に広まっていきます。豊臣秀吉の「五三の桐」の太閤紋は特に有名ですね。秀吉夫妻を祀る京都東山の高台寺の蒔絵には桐(きり)が好んで用いられたようです。
そんな神々しい桐文(きりもん)をご紹介致します!
桐(きり)とは?
桐(きり)は、ノウゼンカズラ科のキリ属に分類される広葉樹で、奈良時代から平安時代にかけて中国から日本に伝えられました。
成木は8~15m、樹皮は灰白色でなめらかな手触りをしており、葉は直径20~25cmの広い卵型をしています。
春から初夏にかけて釣鐘型をした薄い紫色の上品な花を枝先に咲かせ、花が終わった後実を付けます。
元気のよい株は開花が控えめになるという、面白い特徴もあります。
桐(きり)の名前の由来
桐(きり)という名前は、桐(きり)は伐採してもすぐに枝が伸びていくことから「切る」、「切り」が由来といわれており、極めて成長が早い特徴からきていると言われています。
桐(きり)のイメージ
桐(きり)の木や花には古くから神聖なイメージがある植物です。
原産地である中国では、伝説の鳥・鳳凰(ほうおう)が止まる木と言われ、桐(きり)は神聖な意味を持つ植物となっています。日本に渡来した後もその神聖なイメージが引き継がれ、更に高貴な色とされる紫色の花を咲かせることもあって、神聖な木として大切にされてきました。
皇室の紋章や武家の家紋、500円玉硬貨のモチーフとしても使用されています。
桐(きり)と風習
昔の日本では農家に女の子が生まれると庭に桐(きり)の木を植えるという古い風習があったそうです。
これは女の子が成人した時、桐箪笥や長持を作って嫁入り道具として持たせる為だそうです。
桐(きり)は、15年程で成木になり、木材として丈夫で扱いやすい桐(きり)の特徴から生まれた風習だと言われています。
桐(きり)の種類
日本では特に東北地方や関東地方へ多く植栽されてきた歴史があり、青森県および岩手県で伐採された桐(きり)は「南部桐」、福島県の桐(きり)は「会津桐」とも呼ばれています。
寒冷地で育つ桐(きり)は温暖な地域で育つ桐(きり)よりも成長スピードが遅く、その分密度が高い上質な木材となることから東北地方の桐(きり)は高値で取引されるようです。
桐(きり)の花言葉
桐の花には、鳳凰(ほうおう)が桐の木にだけ止まるという中国の伝承、また日本でも神聖な木とされてきたことから、「高尚」という花言葉が付けられています。
桐(きり)と豊臣秀吉
室町時代や戦国時代には、朝廷が功績のある武家に桐紋(きりもん)を、褒美として下賜する習わしがあったようです。
桐紋(きりもん)は、元々天皇家が使用していた紋章であり、朝廷から室町幕府将軍の足利氏に与えられたのです。
この桐紋(きりもん)を、室町幕府15代将軍・足利義昭(あしかがよしあき)が織田信長に下賜したそうです。
後に、織田信長が豊臣秀吉へ桐紋を授けた為、豊臣秀吉が五三桐紋(ごさんきりもん)を家紋にしたようです。
豊臣秀吉が関白の官位を退いて、太閤と呼ばれるようになった際に用いていた家紋「太閤桐紋(たいこうきり)」は、豊臣秀吉、自ら作り出したと言われています。
豊臣秀吉は、全国各地を制圧する過程で配下となった武将に桐紋を多く与え、自身はより高く格付けした独自の太閤桐紋(たいこうきり)を使い始めたと言われています。
豊臣秀吉が「木下藤吉郎」と名乗っていた時期、織田信長から五三桐紋(ごさんきりもん)を下賜されるまで豊臣秀吉は「沢瀉紋(おもだかもん)」を家紋にしていたようです。
桐(きり)の特徴
桐(きり)には、たくさんの素敵な特徴があります。
桐(きり)の木の効果(メリット)
桐(きり)は、木材としては丈夫で扱いやすく、断熱性に優れており、水を通しにくいなどの特徴から、下駄や箪笥(たんす)、箏(こと)などの材料に古くから利用されてきました。
さらに、虫や菌を退ける成分も含まれているため、昔から桐箪笥に着物をしまうことで高価な着物から虫食いを防いでいたそうです。
防湿効果
桐(きり)自体の組織の中にチロース構造というミクロの小部屋が無数に広がっています。
これが、湿度を吸収して桐(きり)が湿気を遮り、カビの防止になります。
保湿効果
桐材は多孔質の為、保温効果が大きいのも特徴の1つです。
その為、炊いたご飯を冷めないようにするために、おひつ・下駄にも用いられました。
防虫効果
桐(きり)はアルカリ性で、タンニン、パウロミン、セサミンといった成分が含まれており、これらが防虫効果をもたらしています。
この成分は、桐自体を腐敗から守り、腐りにくくしています。
この効能で着物から虫食いを防いでくれています。
軽さ
桐(きり)の比重は、水を1とすると、わずか0.3です。
つまり日本列島に育つあらゆる木の中で桐(きり)が一番軽い樹木です。
遠赤外線効果
桐(きり)も遠赤外線を放射しています。温度あるものは人間でも石でも遠赤外線を放射していますが、桐(きり)の遠赤外線の放射率は炭素と同等で、人体の発する遠赤外線の波長9.4μと同じだと
言われています。
癒しの効果
桐(きり)自体からマイナスイオンが放射され、室内全体を癒すと言われています。
また、焼桐は、マイナスイオンが木炭の3倍もあることも分かったそうです。
桐(きり)の持つ自然の旁香は、精神的なリラックスをもたらします。
桐(きり)の木のデメリット
効能が沢山ある桐(きり)の木ですが、当然デメリットもあります。
傷つきやすい
桐(きり)の木は非常に柔らかく繊細な木材であるため、傷がつきやすいという弱点があります。
特にフローリング材に使用した場合、断熱性が高く温かい感触を得られる一方で、モノを落としたときに大きな凹みができたり、引っ越しや模様替えの際に床に傷がつくこともあります。
変色しやすい
桐(きり)の木に含まれるタンニンは、年数が経過すると黒く変色しやすいという特徴があります。
これは木材の内部に含まれていたタンニンが、時間の経過とともに表面に浮き上がってきて、酸化することで生じる化学反応です。
経年変化を楽しむことができればベストですが、鮮やかな木材の色に惹かれて桐材(きりざい)の家具を選んだ方にとっては、残念に感じてしまうかもしれません。
水に弱い
桐(きり)の木は内部がスポンジのような組織になっているため、水を吸収しやすい特性があります。
わずかな湿度の変化であれば吸湿性を発揮しますが、水に濡れてしまうと大量の水分を吸収し、木材そのものが膨張・変形する可能性があります。
大量の水分を吸収してしまうと防カビ効果が失われ、内部でカビが繁殖することもあるでしょう。
菊紋(きりもん)について
桐紋(きりもん)は、梅、藤、木瓜、片喰とともに五大家紋の一つと言われています。
では、いくつか代表的な桐紋(きりもん)をいくつかご紹介します。
五三桐(ごさんきり)
家紋:五三桐(ごさんきり)
参考:発光大王堂
五三桐紋(ごさんきりもん)は、中心に5つ、左右に3つの花を立てた桐紋です。多くの場合、皇室から直接「五七桐紋(ごしちきりもん)」を下賜された家から、家臣などに家紋を与えらる場合に「五三桐(ごさんきりもん)」となるようです。
家紋と言えば、鉄板の家紋ではないでしょうか。
太閤桐(たいこうきり)
家紋:太閤桐(たいこきり)
参考:発光大王堂
太閤桐紋(たいこきりもん)は、五三桐(ごさんきりもん)を全体的にデフォルメし、輪郭のみで描くデザインです。豊臣秀吉が自らデザインしたと言われる桐紋の1つで「太閤」が用いたことから「太閤桐」と呼ばれているようです。
五七桐(ごしちきり)
家紋:五七桐(ごしち)
参考:発光大王堂
五七桐紋(ごしちもん)は、中心に7つ、左右に5つの花を立てた桐紋です。桐紋の中で最も権威が高く、五三桐紋(ごさんきりもん)よりも格が高いです。天皇家の家紋として知られていますが、天皇家が自身で用いるより、足利氏や豊臣氏など政権を担当する家に下賜されて用いられることが多かったそうです。
丸に五三桐(まるにごさんきり)
家紋:丸に五三桐(まるにごさんきり)
参考:発光大王堂
丸に五三桐紋(まるにごさんきりもん)は、五三桐紋(ごさんきりもん)を白抜きの円で囲ったデザインです。この家紋も、結構見かける身近な家紋で、THE★家紋みたいな感じですね。
桐文(きりもん)が使用されたデザイン
桐(きり)や桐文(きりもん)が使用されたデザインを浮世絵でご紹介致します。
歌川国芳 「太平記英勇伝 中浦猿吉郎久吉 豊臣秀吉」
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狩野元秀 「織田信長像」 (1583)
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喜多川歌麿 「当時全盛美人揃・兵庫屋内 花妻」
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東洲斎写楽 「中山富三郎の宮城野」
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北野恒富 「淀君」 (1920)
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