【解説】菊文(きくもん)とは?日本伝統文様にある菊(きく)を徹底解剖!

菊文-タイトル trivia
菊文 – きくもん –

菊(きく)は、奈良時代初期に大陸文化の流入と共に中国から薬用として渡来し、平安時代後期には観賞用として扱われるようになり、宮中で菊花の宴が催されていました。この宴は宮中の年中行事で、重陽(ちょうよう)の節会、菊の酒などと呼ばれました。
奈良時代初期に日本に菊(きく)が入ってきたという事で、万葉集では菊(きく)は登場しませんが、平安時代になるとその美しさが貴族の間で特に愛好されるようになり、「古今和歌集」、清少納言の「枕草子」、紫式部の「源氏物語」などに頻繁に登場するようになります。
また菊(きく)は、中国では不老長寿の効能があるとされ、また隠逸なる花として梅竹蘭と共に四君子(しくんし)とされました。
更に日本では、薬用植物としても知られている菊(きく)は江戸時代にブームになり「菊(きく)作り」は「碁打ち」「博打打ち」に並び江戸三大親不孝の一つとされ人々を夢中にしました。

そんな広く愛されてきた菊文(きくもん)をご紹介致します!

 

return-torazou



菊(きく)とは?

kiku菊(きく)は、原産地は中国で、キク科キク属に分類される多年草です。
草丈30cm~1m程度の高さにまで成長し、楕円型の花びらが密集した花です。
菊(きく)は、黄・白・ピンク・オレンジ・紫・赤など様々な色で咲き、9~11月頃に見頃を迎えます。
菊(きく)は、寒さに強く、秋の代名詞(秋の季語)でもあり、旧暦9月9日(現代の10月中旬頃)には「重用の節句」が別名「菊の節句」とも呼ばれるようになりました。

菊(きく)の種類

菊(きく)の種類は200品種以上もあるといわれ、種類によって花色や花の大きさなど特徴も違います。観賞用に育てられているほとんどが「家菊(いえぎく)」と呼ばれるもので、起源は中国です。その「家菊(いえぎく)」が日本で野草として自生した「野菊(のぎく)」は、約20種ほどで日本の在来品種です。
更に菊(きく)には、日本で誕生した「和菊」と欧米で品種改良された「洋菊」があり、同じ菊でも見た目は全く違います。

和菊

和菊は「古典菊」とも呼ばれ、江戸菊など地名の名前がつく種類が多いです。
和菊には花びらのサイズごとに「大菊」「中菊」「小菊」に別れます。

大菊

花の直径が18㎝以上で、大菊は花びらの形によって「厚物」「管物」「広物」に分類されます。

厚物(あつもの)

厚物(あつもの)厚物(あつもの)とは、厚みのある花びらが多数ついており、こんもりと咲く一輪菊厚物は花びらが幾重にも重なり、盛り上がったような花姿の大菊です。
厚物(あつもの)は、代表的な菊(きく)の種類で、菊花展などで見かけることが多い「ザ・菊」です。外側の花びらが長い種類は、厚物ではなく「厚走り」と呼ばれています。

管物(くだもの)

管物(くだもの)管物(くだもの)とは、細長い筒状の花びらが多数ひろがっている一輪菊の事です。

広物(ひろもの)

広物(ひろもの)広物(ひろもの)とは、花びらが幅広い大きな一輪菊の事です。

中菊

中菊-edokiku 花の直径が9㎝以上18㎝未満で、最も一般的な咲き方の菊(きく)です。
葬儀や生け花のお稽古などで幅広く使われる品種です。
「江戸菊」はここに分類されます。

小菊

花の直径が9㎝未満の小さな花を1本の茎に複数つけるスプレータイプの菊(きく)です。




洋菊

洋菊とは海外で品種改良された菊(きく)で、花の形、色のバリエーションが大変豊富です。
大きく「一輪菊」「スプレー菊」に分かれます。「ポンポンマム」や「スプレーマム」など種類が多く、丸く可愛らしい花姿が多いです。

一輪菊(ディスパッドマム)

「ディスバット」=除去するという意味の「dis」と、脇芽という意味の「bud」を組み合わせた言葉で「マム」=菊(きく)のことを指します。
一輪菊(ディスパッドマム)とは、要するに蕾を取り除いて一輪にした菊(きく)という意味です。ディスバットマムは脇芽を除去し、一輪の花に栄養分を集中させることで、大きく豪華に仕立てることができるのです。

ピンポンマム

ピンポンマム花びらが球状に密集し、見た目がピンポン玉のような形です。

デコラマム

デコラマム花びらの数が多く、隙間なく詰まっており花も大きく、ボリュームのある品種です。
ダリアのようにも見えます。

スプレー菊(スプレーマム)

蕾を摘まずに枝状(スプレー状)に多数花を咲かせる1茎多花咲きの菊(きく)です。菊(きく)特有の花持ちの良さと、バラエティーに富んだ花色・花形が特徴です。

スプレーピンポンマム

スプレーピンポンマムピンポンマムの形の花が1本の茎に複数ついている品種です。

デコラ咲きスプレーマム

デコラ咲きスプレーマムスプレーマムの代表格で、スプレーマムの中で最も流通量が多いです。

菊(きく)の名前の由来

秋のシンボルとも言える菊(きく)の名前の由来は、中国から渡来した際の読み方が訛ったことが始まりと言われています。
漢字の菊(現在の中国語では「ju(チウ)」)は、昔「kuk(クク)」と呼ばれていました。
この「クク」と言う発音が訛り、変化して現在の「キク」と呼ばれるようになったようです。

菊(きく)の英名はChrysanthemum(クリサンセマム)です。 英名の由来も学名の由来と同様でギリシャ語の「黄金」と「花」がMIXして出来たと言われています。

また、菊(きく)は一年の最後に咲く花とされていた事から「窮まる(きまわる)=物事がこれが果てというところまでくる」といった意味が由来ともいわれます。

菊(きく)の意味

菊(きく)の花言葉は「信頼」「高貴」「高潔」「高尚」です。

菊(きく)は、貴族や皇室でも深く愛された花だった事から、菊(きく)の花言葉は、その気品のある姿形や薬草としての信頼のほか、高貴な人々に重用されてきたことに由来すると思われます。

お葬式では祭壇や棺を飾るのに、もっともよく見かけるのが白い菊(きく)です。
故人に捧げる献花としては、特に定められた品種はありません。
お葬式に菊(きく)を使うようになったのは明治時代からと言われており、これはフランスで葬儀の際、祭壇に白い菊(きく)を飾る文化があったことが元になっていると言われていますが、はっきりとした由来のある説ではないようです。
その他、「国花や皇室の紋章に使われている格調の高い花だから」「花の香りがお香の香りと似ているから」「菊酒を飲むと長寿になると言われていることから、参列者の健康祈願として」「邪気を祓う力がある」などの説がありますが、いずれも確たる由来はないようです。




色別での菊の花言葉

更にカラー別で花言葉が違います。

赤の菊

赤の菊赤色の菊(きく)の花言葉は「あなたを愛しています」「愛情」です。

ピンクの菊

ピンクの菊ピンク色の菊(きく)の花言葉は「甘い夢」です。

白の菊

白の菊白色の菊(きく)の花言葉は「真実」「慕う」「誠実な心」です。

黄の菊

黄の菊黄色の菊(きく)の花言葉は「長寿と幸福」「わずかな愛」「破れた心」です。
原産地の中国では菊(きく)は長寿の意味をもつことからつけられました。

紫の菊

紫の菊紫色の菊(きく)の花言葉は「私を信頼してください」「夢が叶う」「恋の勝利」です。

 



菊文(きくもん)について

菊花の文様は、端祥文とされ、古いモノは正倉院裂(そうしょういんぎれ)にみられます。
鎌倉時代には菊水の文様(菊水紋/きくすいもん)として鏡や鐔(つば/刀剣のツバ、刀の柄の先)、蒔絵(まきえ/漆工芸の代表的な加飾技法の1種)などに描かれました。
室町時代の辻が花、桃山時代の縫箔(ぬいはく)に見事な菊文があります。
また江戸時代の小袖や能装束には、大胆に意匠化されたものが多いです。
菊の花弁の文様、花部分を中心に図案化したものを「菊花紋、菊花紋章」、枝についた花の文様の折枝文(おりえだもん/おれえだもん)の1つ「折枝菊(おりえだぎく)」、直立した姿を「立菊文」と言います。

では、いくつか代表的な菊紋(きくもん)をいくつかご紹介します。

十六葉八重菊(じゅうろくようやえぎく)

十六葉八重菊 家紋:十六葉八重菊(じゅうろくようやえぎく)
参考:家紋のいろは

十六葉八重菊紋(じゅうろくようやえぎくもん)は、皇室の紋章として有名な家紋です。
鎌倉時代、後鳥羽上皇は特に菊を好んでいた為、持ち物には菊を文様として取り入れており、これが代々使われていくうちに皇室の紋章となったと言われております。
現在、日本の事実上の国章としても使われており、大日本帝国憲法や日本国憲法の原本を納めた箱の蓋にも刻まれています。

十六葉菊(じゅうろくようぎく)

十六葉菊

家紋:十六葉菊(じゅうろくようぎく)
参考:家紋のいろは

十六葉菊紋(じゅうろくようぎくもん)は、16枚の花弁を持つ菊をデザインした文様です。別名「十六菊」と呼ばれています。
多くは皇室や豊臣秀吉より下賜された家が用いる家紋でもあります。

菊水(きくすい)

菊水

家紋:菊水(きくすい)
参考:家紋のいろは

菊水紋(きくすいもん)とは、菊(きく)と水の流れを組合わせたものを文様化したものです。
楠木正成が使った紋は、この菊水(きくすい)と言われています。これは忠義に厚い正成に、後醍醐天皇が感謝の気持ちを込めて菊の紋を下賜したことによるとされています。
しかし、楠正成は、天皇家の家紋など自分の身に余ることだと思い、そのため正成は菊の花が川の流れにゆっくり身を任せているような美しい家紋を使うようになったと言われています。

菊菱(きくびし)

菊菱

家紋:菊菱(きくびし)
参考:家紋のいろは

菊菱紋(きくびしもん)は、十六菊を菱形にデザインした文様です。日本の小説「吾輩は猫である」で有名な夏目漱石の家紋でも知られています。

 



菊文(きくもん)が使用されたデザイン

菊(きく)や菊文(きくもん)が使用されたデザインを浮世絵でご紹介致します。

喜多川歌麿 「当世踊子揃・吉原雀」喜多川歌麿 「当世踊子揃・吉原雀」
パブリックドメインQ:著作権フリー画像素材集

水野年方 「三十六佳撰 琴しらべ 弘化頃名古屋婦人」 (1893)水野年方 「三十六佳撰 琴しらべ 弘化頃名古屋婦人」 (1893)
パブリックドメインQ:著作権フリー画像素材集

東洲斎写楽 「三世瀬川菊之丞の傾城かつらぎ」東洲斎写楽 「三世瀬川菊之丞の傾城かつらぎ」
パブリックドメインQ:著作権フリー画像素材集

伊藤若冲 「菊花流水図」 (1766)伊藤若冲 「菊花流水図」 (1766)
パブリックドメインQ:著作権フリー画像素材集

 

return-torazou
※2024/07/15(月)更新※



コメント

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました